手しごとまわりのこと

直す現場の直し人

2017-09-30 13.25.07

7月にボロボロだったキッチンマットはあれから二度繕って、今はこうなっています。

もう大ベテラン、台所の主のような様相を呈してきました。

「直す現場」という本は確か震災の年、新宿で友人と待ち合わせしたときに時間調整で入った紀伊國屋でジャケ買いならぬタイトル買いした一冊です。
さまざまな直しのプロを訪ねる雑誌連載(初回は1981年!)をまとめたもので、手書きのイラストとさらりとした文章でとてもわかりやすく興味深い。
ジーンズやバッグの修繕、ペンキの塗り替えといったなじみ深いものから、シロアリ退治、電車整備、水族館のメンテナンスなどなど直しの内容は多岐にわたり、あちこちに社会科見学に行っているような気分になります。

OA機器の修理人が若かりしころ、修理中のファックスのなかにネジを落として発火、壊してしまったという話や、サッカー場のグリーンキーパーが語る、一夜にしてフィールドに何千本ものきのこが生えて、それを一本一本手で摘みとった話。
「直し人」のそんなエピソードもぐっときます。

久々に読み返してみて、私がこれまでお世話になってきた直し人を思い浮かべました。
包丁研ぎを教えてもらった料理人の先生。
革靴のお手入れを習った靴工房さん。
糸車の不具合時に質問したら、詳細なメールをくださった織作家さん。

共通して思い出されるイメージは、その知識や技術の出し惜しみのなさ。
直して使うということを、限られた人が行う特別な作業にしたくない、という思いをいつも感じました。

何であれ、直さずとも買い替えられるしそのメリットもわかっているからこそ、直して使えるもの、直して使いたいものはそうしたい。
惜しみなく与えてくださった尊敬してやまない直し人たちに恥じぬように。

あ、もう一人思い出した。
子どものころ、実家のピアノの調律をお願いした時のこと。
作業中に叫び声がして、何事かと母が駆けつけると調律師さん(若いお兄さん)はいそいそとバッグに道具を詰め込んで開けた天屋根もそのままに、ひと言「無理です」と言って帰っちゃった、という話を帰宅後母に聞かされました。
「なんで?」
「お母さんもなんで?と思ってピアノのなか覗いたら、ネズミの巣があったわー」

ちなみにネズミはいなかったそうです。
この経験を糧に、彼もその後立派な直し人になられたことと思います。

 

テグスと手ぐすね

風鈴が好きです。
我が家には3つの風鈴があって、ひとつは地元で買ったガラス製、もうひとつは東京で買ったこれまたガラス製。

最後のひとつは京都で買ったインドの真鍮製。

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まあ、カウベルですよね。
カウベルだったのですが、まったく使わないので去年無理やり風鈴にしました。
木製の舌に穴を空けてテグスを通し、いただいた封筒を切ってワックス処理して作った短冊を付けました。
なかなか趣のある音がごく稀にしか鳴らないので、集合住宅にはもってこいです。

ところでふと思い立って調べたのですが、「テグス」と「手ぐすね」はまったく関係ありません。
薬煉(くすね)とは弓の弦に強度を増すために塗る松ヤニのことでした。
メジャーリーガーもバットに塗ってます、滑り止めとして。
でも私が「手ぐすね引いて待ってるね」という言い回しをするときに思い浮かべるのは、糸状のものをピーッとやる必殺仕事人的仕草でした。
完璧に「てぐす」という音に引っ張られてますね。
ちなみに中条きよしが使う三味線糸もテグスももとは絹糸のことなので、正しく一致しています。
無駄に。

ひとつ賢くなったところで。

風鈴の短冊、というイメージで作ったピアス&イヤリング「NEIRO」。
もちろん、巻いているのは絹糸です。

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サンプルケース

・遮光性があること
・軽量であること
・多少のクッション性があること
・蓋がしっかり閉まること
・華美でないこと

箇条書きにしてみるとまるで学生鞄にまつわる規定のようですが、これはtagottoのサンプルを持ち歩くためのケースに求める条件です。
かなりラフな条件だと思うのですが、探してみるとなかなかないものです。

探してみるとなかなかないものっていくつもあって、例えばU字型便座カバーやキッチンマット。
セットにするのはどうかと思う例えで申し訳ないのですが、実際にこのふたつはずっと探していました。
便座カバーは、U字型のトイレ自体が絶滅危惧種なうえ、あれ、なんなんすかね。
3回ほど洗濯するだけでモケモケになるでしょう、便座カバーって。
両手に持っていた便座カバーと毛玉取り器を交互に見つめ、えいっと放り投げて「よし作ろう」と思いまして、編んだり縫ったりしたこともあります。
編むのは労力のわりに…という感じですが、古いセーターやスウェット(の右手~襟ぐり~左手部分)を切って袖口を縫い、襟ぐりにバネホックか何かを付ける、というアイデアは我ながらイカすと思いました。
結論としては毛玉を取るほうが楽ですが。

キッチンマットは、世に出回っているものがとにかく立派。大きかったり毛足が長かったり。
単純にシンク前の床板を濡らしたくないだけなので、滑らないバスタオルくらいのスペックでよかったのですが、探してみるとやっぱりなかなかない。
こちらも仕方がないので作りました。
蚊帳生地とバスタオルと滑り止めシートの三重構造、気軽に洗濯できて乾きやすく滑らない。完璧です。
今はこんな感じにボロボロになってしまったので、別生地を重ねて繕い中です。

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サンプルケースに話を戻します。
探しながら使っていた間に合わせが間に合わなくなってきたので、これも作るしかない。
家中をうろうろ物色して比較的しっかりした作りの紙箱を見つけ、これを解体して布貼りすることに。
厚紙で別に蓋部分を作り、地味めな布を貼っては乾かし、また貼っては乾かしして完成です。
カルトナージュには木工用ボンド(黄色と赤のアレ)とでんぷんのり(黄色と赤のアレ)を混ぜて使うといいらしいですよ。
勉強になりました。

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乾かすときに洗濯ばさみを使ったら跡が残ってしまいましたが、まあいいか。

 

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中はこんな感じ。
クッションと仕切りはおいおい考えようと思います。

何が入っていた箱だったのかさっぱり思い出せませんが、とっておいた自分、偉い。

靴下のことばかり考えて暮らした

作っていると何かを直したくなり、直していると何かを作りたくなります。
ただ気が散っているだけなのですが、こう書くと湧き出す泉感があるようなないような。

3月4月と作ることに集中していたので、GW明け以降はやたらいろいろ直しました。
破れたリュックの底を張り替えたり、ジーンズを補強したり、くるぶしを出したくてパンツの裾を切ったり、久々に金継ぎをしようと思ってやっぱり後回しにしたり。
そして最近は、誰かと会うたび「靴下の穴」の話をしているような気がします。

すぐに穴が空くけど手軽に直せるという理由で、靴下というのはとても好きなアイテムです。
手軽に直せるからこそ、長持ちする、かつ履いたときにゴロつきなどの不快感がない方法を考え、あれこれ試しています。

私が普段使うのは、①縦横に毛糸を渡して織物状に穴を埋めていく方法と、②チェーンステッチで丸く繕う方法。
靴下お直し界の二大勢力だと思われるこのふたつです。
あとはそれを組み合わせたり、Tシャツ生地を当て布にしたり。
靴下の素材にかかわらず、直す際にはウール100%の細めの毛糸を使うことが多いです(摩擦でフェルト化して丈夫になるため)。
別に編んだ円モチーフを縫い付ける方法も試したのですが、履き心地がイマイチで却下となりました。

 

2016-11-07 12.44

↑が昨年末に①で直した靴下。
縦と横で糸の色を変えるという洒落っ気を出したはいいものの、補修箇所の大きさに対して糸が細すぎて(パピーニュー2PLY極細)、思った以上に時間がかかってしまいました。
使う糸が細いほど着用時の違和感は少ないですが、やはりダメになるのは早いですね。
しかも今頃気づいたけど防縮加工糸…。
ところで左に写りこんでいる木箱と靴下の色味がわざとらしく同じですが、偶然です。

 

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↑が最近②で直した靴下。
履き心地は①に分があるのですが、ヤボッとした見た目が好きなので昔からよくやってます。
糸は今回初めて使ったウール50%ナイロン50%のSki Score中細。
フェルト化するウールと、摩擦に強く穴が空きにくいナイロンの合わせ技で、どれくらい耐えられるのかを試してみたいです(涼しくなったらね)。

 

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靴下のお直しに使うダーニングマッシュルーム。
と言いつつ、左端の草間女史的水玉はケニアの文鎮です。
テーブルの上に置いて使っても安定しているので、これはこれで便利。

ミシンでボタンホールのススメ

ミシンをお持ちの方で、自動ボタンホール機能を使ったことのある人は、わりと少ないのではないかと思います。
直線縫いやジグザグミシンなどと比べると、まず「押さえ」を交換するというハードルがあり、さらにあのカーテンレールとノギスが合体したような押さえの形そのものも、使いこなしづらいオーラが漂っていますから。

 

P1060608 (3)参考画像。左から通常の押さえ、ボタンホール用押さえ、ノギス。

 

ところでノギスっていいですよね。機能美の見本のよう。
大雑把の見本のような私にはハイスペックに過ぎますが、それでもたまには使いますよ。

 

さて、ボタンホール。
凝ったバッグや洋服を自作する以外では、好んで使う機会も理由もない、と私も以前は思っていました。
バッグも服もほとんど作らないので、長年この機能を使ったことがなかったのです。
でも、やってみると本当にすぐにできてしまうんですよ。
ボタンをひとつ付けるよりずっと早く。

ボタンホール自体は手縫いもできるし、ミシンで直線とジグザグを組み合わせて適当に縫ってもできますが、どちらもそこそこ面倒くさい。
このオートマチックハイテクシステムを使えば、押さえを取り付け印に合わせてポチッとな。
あとは放っておけば欠伸2回分ほどの時間でできます。
ちなみに我が家のミシンはそろそろ20年選手になりそうなbrother。
もう、ふたつの意味でブラザー。
それでもこの機能は搭載されています。
今のミシンはさらに簡単なのかもしれないし、押さえの形も親しみやすくなっているのかもしれません。

詳細な手順はミシンによって違うでしょうから説明書を読んでいただくとして、最近の使用例を。

 

 

P1060594 (3)古い羽織にボタンを付けた。

 

P1060601(2)着なくなったセーターの大きなポッケを切り取ってボタンを付けた。
隣の弁当箱は大きさ比較のために置いただけです。

 

あと、巻きスカートなんかのサイズ調整にもいいでしょうね。
「ここにボタンがあればいいのに」というところに迅速にボタンが付けられる、素晴らしい機能です。

ただ、失敗すると糸をほどくのが泣きたくなるほど大変です。
ドヤッと紹介した↑の羽織、生地が厚かったので二度も途中でミシンが止まりました(うち一度は針も折れました)。
必ず同じ生地、少なくとも似たような生地で試し縫いをしてください。
途中で止まるようなら縫い目を荒く調整してください。

 

ええ、どちらも説明書に書いてありますとも。