言い訳の準備

 

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着なくなった服が捨てられません。

捨てられないのは服に限ったことではありませんが、とっちらかるので以下服に限って話を進めます。

化繊ものは掃除に使ったりしてわりとポイポイいけますが、綿、麻、毛まわりがとにかく溜まっていきます。
いつかまた着るかもと思っているわけではないし、「この服を着てあの方とあそこへ行ったわねうふふ」みたいなことでもありません。
「そのうち何かに使うだろう」と思って溜め込むのです。
実際使っているので、誰かに(というか自分に)とがめられても言い訳の準備はあるのですが。

こうなったきっかけはよく覚えていて、15年ほど前に雑誌で見たZakka・吉村さんのはぎれで作る鍋つかみです。
自分でも作りたいと思い、はぎれやタオルを集めても素材が足らず、「これはまあ、もう着ないな」というシャツを切って使った。
それが始まりです。

鍋つかみは、かなりたくさん作りました。
でも素材化した服は全然減らない。使うのはほんの少しですから。
せっかくなので同じ手法でトートバッグもいくつか作りました。
すると丈夫なバッグも欲しくなって、チノパンの足部分を使ったり。
スカートでエプロンも。
セーターは繋ぎ合わせてマフラーにしたり、トイレの便座カバー…の話は、以前書きましたね。

そんなふうに、あらゆる類の着ない服が時間をかけてはぎれの山と化し、果ては実家から持ち帰ったりもして、作業部屋の押入れはまあ、すごいことになっているのです。

 

 

「この服を素材にしよう」と決めたとき、まずやるべきはボタンやカン類を取り外すこと。
続いてリッパーで縫い目を切り、解体していきます。
ですがお察しの通り圧倒的な面倒くささ、そして糸くずゴミが想像を絶する量で生じます。
あるとき、何枚かの服を解体して出た糸くずを丸めてボールを作り、「これもとっておけば何かになるんじゃないか」と考えたところでやっと我に返ってボールをゴミ箱にロングスロー(当然外す)。
それからは縫い目に沿ってただ切り分けることにしています。
でもこの「解体作業」が、裁縫に疎い私には何かと勉強になりました。

たとえばジーンズの脇縫いなどでよく見る「折伏せ縫いのダブルステッチ」。
ぬいしろでぬいしろをくるむことで裏側にも布端が出ない、スマートかつとても丈夫な端処理です。

解体時には、通常1本の縫い目をほどけば済む作業が3倍になるため独り言の品の悪さに拍車がかかりますが、ふと、この縫い方は使える!と思ったのです。
裏も綺麗なので、半端なはぎれ(元・シャツや何やかやだったもの)を繋げていくには好都合だと。

で、作ったのが冒頭のお弁当包み。
まだ途中のつもりだったのでぐるりは切りっぱなしですが、もうそのまま何年も使っています。

 

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そして溜まりに溜まった白系素材を集めて作ったクロス。100㎝×200㎝の大作で、最初はテーブルクロスとして、最近は販売会のときなどに使っています。

 

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そして先月作った、tagotto用の風呂敷。
何となく思い付きで手縫いでやってみました。
楽しかったです。

 

 

折伏せ縫いを覚えたからといって途端にはぎれの在庫が片付くわけもなく、今日も押入れはすごいことになったままではあるのですが、以上が、溜め込む自分を反省したくなったときに読み返す用の言い訳でした。

2年経ちました

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ある友人は、tagottoを誰かに紹介してくれるときに「アライグマみたいに糸を巻く」と言う。
ちょっと何を言っているのかわからないけれど、「アライグマが洗うようにtagottoは糸を巻く」ということらしい。
やっぱりよくわからないけれど、それはきっと私がアライグマに詳しくないからだろう。
ともかく友人のその言い回しを耳にすること数回、わからないなりに何となくアライグマに親近感を覚え始め、ついに先日いくつか動画を見た。

結論:アライグマは思ったほど洗っていませんでした。可愛かったけど。

それでも、「アライグマが洗うようにtagottoは糸を巻く」というフレーズが気に入ってしまったので、機会があれば何かに使いたいと思います。
友人には事後報告にしよう。

 

 

2年前、ひょんなことから始めたアクセサリー作り。
2年、まだたったそれだけで、長かったとかあっという間だったという感慨を持って振り返るほどのこともないのですが、改めて最近、なぜアクセサリーを作っているのかと考えたりします。

思い返してみれば最初に就いた販売職時代から、女性の笑顔は私のテーマでした。
サプリメントや精油、化粧品などを主に扱っていたため女性のお客様が主であり、そして「家族のために」何かを探していらっしゃる方がとても多かった。
疲れ気味のご主人のためにBコンプレックスを、肌の弱い娘さんのためにアルコールフリーの化粧水を、冷え性のお母様のためにハト麦茶を、といった具合に。
タッチアップやハンドマッサージをしながら「でもご自分のこともお大事に」と言うと泣きだしてしまわれる方も少なからずいらっしゃって、そんな女性にどう笑顔で帰っていただくか、が自分の命題になっていました。

きっとそれは今も変わらないのだと思います。

さまざまな環境で、たとえば自分のことを後回しにしていてもいなくても、愚痴を言う場があってもなくても、5分前まで泣いていてもいなくても、きっと女の人は小さなことで笑える強さを持っている。
その笑顔のために、これからも糸を巻き、アクセサリーを作りたいと思っています。

2年間、節々でたくさんの方に助けていただきました。
おそらく自覚している以上にめんどうな人間ですから、その迂遠に根気よく付き合ってくれている人、友人、家族、そして更新頻度が右肩下がりのブログを今なお読んでくださっている方にも、

本当にありがとうございます。

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いつも使っている道具にも。

滑り止めシート七変化

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春に購入した、エクアドルのマット。

白とグレー、2色の麻縄を三つ編みにして縫い繋げてあるのですが、そのヘリンボーンのような模様と微妙な色合いが気に入っています。

ところでヘリンボーンの〈ヘリン〉って、にしんのことなんですってよ。
ヘリンボーン、にしんの骨です。
身欠きにしんの麹漬けは、私の大好物です。

で、そのにしんマットは表も裏もないタイプでして、フローリングの上だと滑ります。
玄関マットとして使っていたのですが、帰宅時に靴を脱いで一歩踏み込んだ拍子にスベッと30㎝ほどスライドしたことが何度かあって、これは近い将来転んでお尻か頭を強打するなと確信するに至ったので、台所マット同様裏に滑り止めを付けました。

 

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汚れたときには速やかに表裏を逆にできるよう、かなり雑にかがっています。
それでも、ただ下に滑り止めを敷いただけのとき(縫う前に試した)とは雲泥の安定感。
マットが硬く厚みもあって手縫いでかがるのは骨が折れましたが(ヘリンボーンだけに)、寿命が延びたと思えばたやすいことです。

 

 

滑り止めシートといえば、昔アメリカンファーマシーだかソニプラだかで初めて買ったとき、「何て便利なんだ!」と感動しました。
今はどこにでも売っていて、カラーバリエーションもあってありがたい。
我が家では玄関&台所マットの他、四角くカットして瓶を開けるときに使ったり、コーヒーミルやすり鉢の下に敷いたり、S字フックに噛ませたり、ブックエンドの不在を補ったりと大活躍しています。

そしてこれ。

 

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黒いシートにスナップボタンを2つ縫い付け、肩にかけたとき外側にくる方の持ち手に巻いただけですが、これでトートバッグがまったくずり落ちないのです。
この滑り止めをバッグに入れておき、荷物が増えた帰り道に装着すると、あの「荷物を持ち換えたり一旦下に置いたりして、肩から落ちたバッグを戻す」というなで肩特有のストレスから解放されますよ。
今回はスナップボタンを付けましたが、マジックテープであればミシンでシャッと縫うだけ、使い勝手もよりいいかもしれません。

 

 

とかくよく転ぶ人間というのは、〈滑る〉ことに敏感というか、忌み嫌う傾向にあるのかもしれないと、これを書いていて思いました。サンプルは私だけですが。

 

カバーの話 その1

子どものころ、家中をカバーが席巻していた時代がありました。

椅子やソファは当たり前、ドアノブ、トイレットペーパーホルダー、電話と受話器、トースターなどなど。
ものがあることが当たり前になる少し前、大切に、できるだけ長く綺麗に使おうという時代の風潮だったと思うのですが、当時はこのカバーがあまり好きではありませんでした。
なんかフリフリしてるし(表がレースで裏が小花柄のリバーシブルとか!)、汚すな壊すなのプレッシャーもすごいし、洗濯のためにカバーを集めてきてと言われるのもめんどくさい。
いつの間にか上記のカバーは減っていき、気づいたらほぼなくなっていましたが、ものに慣れたとか大切にしなくなったというよりは、母もただ洗濯と着脱が面倒になったんだと思っています。

時は流れ、今、我が家にはけっこうな数のカバーがあります。
刷り込みなのか、何なのか。
これはそのなかのひとつ。

 

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傘の持ち手カバー。
もともとは、出先で自分のビニール傘がわからなくなったり、またはなくなったり、というトラブルを避けるために作りました。
色、素材、太さがバラバラのたくさんの糸を使って編むのが楽しくて、以前ワークショップをやらせていただいたこともあります。

ところで、細編みなどで筒状に編むと編み地が右方向に斜行します。
棒針編みと違い、かぎ針編みは下段の〈真上〉ではなく〈右に半目ずれたところ〉に上段が乗っかっていくので、同一方向に編み進めると上へいくほど右にずれていってしまいます。
細長ければ細長いほど、なんかくねくねしちゃうのです。

ご注文をいただくようになってから、これを修正しました。
斜行の解決には、往復編み同様に表と裏を交互に見ながら編むなど方法はいくつかあるのですが、手前側の半目をすくう細編み(裏側がすじ編みになる)で編むのが簡単でおすすめです(引き抜き編みのみ通常の編み方)。

 

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左が通常の細編み、右が修正後の編み地。
引き抜き編みの位置を見ればやはり随分違いますね。

すじ編み同様、縦方向に若干長くなるので正方形を編むには向きませんが、持ち手カバーには願ったり叶ったりです。

 

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家に半端な毛糸がたくさんある方は、おひとついかがですか?
少なくとも傘の紛失はなくなりましたよ(※個人の感想です)。

 

 

余談ですが、岡崎京子氏も自作のなかで、実家の象徴としてポットの花柄やテレビの上のコケシとともにフリルの電話カバーを挙げてましたね。

実家の象徴、今の若い人にとっては何だろう?

シャツ・越えた山・一家言

シャツが似合いません。

理由は肩幅、首の長さ、顔の形が実にのびのびと「シャツが似合わないための必要十分条件」を満たしているからで、たとえるなら初めてのデートでショッピング中、ほやほやの恋人が「え?絶対そんなことないよ!!」と言うから着てみたのに試着室から出ると無言でチベットスナギツネみたいな顔される、というくらいには似合いません。

シャツだけではなく、襟があってかっちりしたスタンダードな服――たとえばトレンチコートやジャケットなんかも――が一切ダメなものですから、高校の制服時代は本当に憂鬱でした。
さらに大学新卒時にいくつか出版社を受けて全落ちしたとき、「毎日シャツを着ないで済んだ」という一点でプラス補正されるほど、当時は気に病んでいたものです。

比較的大丈夫なものを探し、これは!と思って買ってみても家で着るとガッカリで、これこそは!と思って買い足そうにももう見つからない。

何で今頃そんな恨み節を書き連ねているかというと、週末に某ショップで服の試着待ちをしていたら、同年代と思しきご婦人(A子さん)が襟ぐりの形とご自身の顔映えとの関係性についてご主人に熱く語っていたり、別のご婦人(B子さん)がアウトソールの色がもたらす脚長効果をご友人に説明していたり、というのをたまたま聞いたからです。

わかるー、と思いました。
きっとみんな若い頃の悩みとトライ&エラーがあって、それぞれが身に着けるものに一家言を持つに至ったんでしょう。
A子さんとB子さんが越えてきた山を思い、彼女たちとちょっと一杯やりたくなりました。

 

 

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展示会前に、着色などの作業用に買った古いシャツ。
もちろんこのままでは似合わないので、手を加えます。
私の一家言は「オーバーサイズ・プルオーバー・スタンドカラー(ボタンは閉めない)」。
なので、襟を直すのです。
台襟(襟と身頃の間の部位)があれば襟を取るだけで済むのですが、なかったので取り外した襟を細く切って、後ろ側で継ぎ足して、縫い直す。

 

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どうってことない作業でどうってことない仕上がりですが、満足なのです。
越えた山のおかげです。

 

でもそれはそれとして。
来世というものがあるならば神様、普通にシャツが似合ってみたいものです。