木の実と少年と

上京して驚いたことのひとつは、人の多さよりも公園の多さでした。
人口比や他国と比べて云々ということはあるでしょうが、山と湖に挟まれた田舎の、――遊具は学校とお寺と公民館にしかなく、公園と呼ばれているのはちょっとした空き地だけだった――地元から来た私には衝撃でした。
都内で何度か引っ越しましたが、どの街も徒歩圏内に複数の公園がありました。
しかも、猫が集会に使いやすそうなちんまりした公園、高校生が学校帰りに自転車を止めてベンチで話し込んだりギターを弾くような中くらいの公園、子連れママさんたちとラグビー部とトップブリーダーが平和的に共存する大きく立派な公園、それぞれが。
さらに東京(だけではないと思いますが)の公園にはさまざまな樹木があり、それぞれが名札をぶら下げていたりして、かつて梅桃桜の区別すら怪しかった私にはとてもありがたいことでした。

公園は年中いいものですが、秋から初春にかけては特に楽しい。
乾き物好きなので、枯葉を眺めたり木の実や種子を拾って観察するのはしみじみ幸せです。

 

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昔実家の近所で拾った菱類、友人にもらってとても嬉しかった無患子(ムクロジ)、古道具屋さんでおまけでいただいた殻斗付きの枝、などなど。
先日雨の合間に(大きく立派な)公園で拾ったメタセコイアの実が可愛かったので、手持ちの乾き物を集めて撮ってみました。

小さな松ぼっくりのようなメタセコイア、実の先から見ると、絵に描いたバラの花のような形をしています。

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週末所用で実家に帰るので、いくつかは父へのお土産にしよう。

 

 

10年ほど前、(中くらいの)公園で草木染め用にどんぐりの帽子を拾い集めていたら、小学生男子が手伝ってくれたことがありました。5年生の2人組で、友達を待っているあいだ暇だし、楽しそう!と。
ひとりはボールを小脇に抱えたサッカー少年。もうひとりは眼鏡をかけたシュッとした男の子(「ハカセは勉強がすげーできるんだよなー!」とサッカー少年に言われていた。ハカセって!!)、染色の話や、「GIANT KILLING」面白いよねーといった話をしながら、待っていた友達がわりいわりいとやって来るまで30分ほど一緒に拾っていたら、とんでもない量のどんぐり帽が集まりました(後日羊毛が濃いグレーに染まりました)。

別れ際、お礼の気持ちにとバッグから飴ちゃん(関西人の性)を取り出して2人に差し出すと、「いえ、それは学校で禁止されているので」と両手でバツを作ってすごくきっぱり断られ、そりゃごめんと言いながら笑ってしまいました。

あの、礼儀正しく心優しい2人の少年も、もう二十歳を過ぎているはず。
達者でやっているだろうか。

秋に公園へ行くたびに思い出します。

直す現場の直し人

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7月にボロボロだったキッチンマットはあれから二度繕って、今はこうなっています。

もう大ベテラン、台所の主のような様相を呈してきました。

「直す現場」という本は確か震災の年、新宿で友人と待ち合わせしたときに時間調整で入った紀伊國屋でジャケ買いならぬタイトル買いした一冊です。
さまざまな直しのプロを訪ねる雑誌連載(初回は1981年!)をまとめたもので、手書きのイラストとさらりとした文章でとてもわかりやすく興味深い。
ジーンズやバッグの修繕、ペンキの塗り替えといったなじみ深いものから、シロアリ退治、電車整備、水族館のメンテナンスなどなど直しの内容は多岐にわたり、あちこちに社会科見学に行っているような気分になります。

OA機器の修理人が若かりしころ、修理中のファックスのなかにネジを落として発火、壊してしまったという話や、サッカー場のグリーンキーパーが語る、一夜にしてフィールドに何千本ものきのこが生えて、それを一本一本手で摘みとった話。
「直し人」のそんなエピソードもぐっときます。

久々に読み返してみて、私がこれまでお世話になってきた直し人を思い浮かべました。
包丁研ぎを教えてもらった料理人の先生。
革靴のお手入れを習った靴工房さん。
糸車の不具合時に質問したら、詳細なメールをくださった織作家さん。

共通して思い出されるイメージは、その知識や技術の出し惜しみのなさ。
直して使うということを、限られた人が行う特別な作業にしたくない、という思いをいつも感じました。

何であれ、直さずとも買い替えられるしそのメリットもわかっているからこそ、直して使えるもの、直して使いたいものはそうしたい。
惜しみなく与えてくださった尊敬してやまない直し人たちに恥じぬように。

あ、もう一人思い出した。
子どものころ、実家のピアノの調律をお願いした時のこと。
作業中に叫び声がして、何事かと母が駆けつけると調律師さん(若いお兄さん)はいそいそとバッグに道具を詰め込んで開けた天屋根もそのままに、ひと言「無理です」と言って帰っちゃった、という話を帰宅後母に聞かされました。
「なんで?」
「お母さんもなんで?と思ってピアノのなか覗いたら、ネズミの巣があったわー」

ちなみにネズミはいなかったそうです。
この経験を糧に、彼もその後立派な直し人になられたことと思います。

 

接着剤の乾くまでなにも出来ない時間のように

たとえば銀座に出るついでがあって、せっかくなのであそこにもあそこにも行こうなどとわくわくしつつ(手持ちのなかでは)銀座的な服を着て家を出る。
どんな順番でどこをまわってどのタイミングでお茶をして、なんてことを話し合いながら、道中見かけたよさげな店でお昼を食べる。
美味しいねえ。
全然知らなかったけれど、いいとこ見つけてラッキーだったねえ。

と、そんなときに限って、服にシミをつくってしまいます。
こういう中身の人間として何十年も生きてきているのに、いまだに。

もう帰りたい…と思いつつも済ませなければいけない用事もあるので引き返すわけにはいかず、トートバッグを胸元に抱えたりしてごまかしながら、銀座をゆく。
すれ違う人はみな背筋がしゃんと伸びている。
お店で店員さんに声をかけられ「シャツにシミのある私ごときがごめんなさい」とひるんでしまう。
休憩したベンチで隣り合ったハイファッションガイの膝には551の紙袋があって、懐かしいな、近くで催事があったのかな、でも豚まんなんて絶対シミになる食べ物だよな。

もう何を見てもシミを思い出す、この時間。
銀座で服にシミができてしまったあとのこの時間は、誰にもなんとも思われていないことや夫が右でけたけた笑っていることとは関係なく、シミとセットでやってくる。

別に銀座じゃなくてもいいんですけどね、先週末はたまたま銀座だったんですよ。
ランチはラーメンでもカレーうどんでも豚まんでもなく、タイ料理でした。
美味しかったです。
ドーバーで見たsacaiのセーター、可愛かったです。

そんな自分ではどうしようもない、通り過ぎるのを待つしかないような時間について、最近よく思いをめぐらせています。
治療後歯の痛みが消えるまでの時間。
切りすぎた前髪が伸びるまでの時間。
シミのある服で家に帰るまでの時間。
みんなに、日常的にあるこんな時間が、つつがなく、できればあっけなく、過ぎていきますように。

 

タイトルは長島有「問いのない答え」より。
まさに接着剤を乾かしているあいだに読み始めたからか、この一節が気になって気になって、先がまったく頭に入ってこなくなりました。

 

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テグスと手ぐすね

風鈴が好きです。
我が家には3つの風鈴があって、ひとつは地元で買ったガラス製、もうひとつは東京で買ったこれまたガラス製。

最後のひとつは京都で買ったインドの真鍮製。

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まあ、カウベルですよね。
カウベルだったのですが、まったく使わないので去年無理やり風鈴にしました。
木製の舌に穴を空けてテグスを通し、いただいた封筒を切ってワックス処理して作った短冊を付けました。
なかなか趣のある音がごく稀にしか鳴らないので、集合住宅にはもってこいです。

ところでふと思い立って調べたのですが、「テグス」と「手ぐすね」はまったく関係ありません。
薬煉(くすね)とは弓の弦に強度を増すために塗る松ヤニのことでした。
メジャーリーガーもバットに塗ってます、滑り止めとして。
でも私が「手ぐすね引いて待ってるね」という言い回しをするときに思い浮かべるのは、糸状のものをピーッとやる必殺仕事人的仕草でした。
完璧に「てぐす」という音に引っ張られてますね。
ちなみに中条きよしが使う三味線糸もテグスももとは絹糸のことなので、正しく一致しています。
無駄に。

ひとつ賢くなったところで。

風鈴の短冊、というイメージで作ったピアス&イヤリング「NEIRO」。
もちろん、巻いているのは絹糸です。

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サンプルケース

・遮光性があること
・軽量であること
・多少のクッション性があること
・蓋がしっかり閉まること
・華美でないこと

箇条書きにしてみるとまるで学生鞄にまつわる規定のようですが、これはtagottoのサンプルを持ち歩くためのケースに求める条件です。
かなりラフな条件だと思うのですが、探してみるとなかなかないものです。

探してみるとなかなかないものっていくつもあって、例えばU字型便座カバーやキッチンマット。
セットにするのはどうかと思う例えで申し訳ないのですが、実際にこのふたつはずっと探していました。
便座カバーは、U字型のトイレ自体が絶滅危惧種なうえ、あれ、なんなんすかね。
3回ほど洗濯するだけでモケモケになるでしょう、便座カバーって。
両手に持っていた便座カバーと毛玉取り器を交互に見つめ、えいっと放り投げて「よし作ろう」と思いまして、編んだり縫ったりしたこともあります。
編むのは労力のわりに…という感じですが、古いセーターやスウェット(の右手~襟ぐり~左手部分)を切って袖口を縫い、襟ぐりにバネホックか何かを付ける、というアイデアは我ながらイカすと思いました。
結論としては毛玉を取るほうが楽ですが。

キッチンマットは、世に出回っているものがとにかく立派。大きかったり毛足が長かったり。
単純にシンク前の床板を濡らしたくないだけなので、滑らないバスタオルくらいのスペックでよかったのですが、探してみるとやっぱりなかなかない。
こちらも仕方がないので作りました。
蚊帳生地とバスタオルと滑り止めシートの三重構造、気軽に洗濯できて乾きやすく滑らない。完璧です。
今はこんな感じにボロボロになってしまったので、別生地を重ねて繕い中です。

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サンプルケースに話を戻します。
探しながら使っていた間に合わせが間に合わなくなってきたので、これも作るしかない。
家中をうろうろ物色して比較的しっかりした作りの紙箱を見つけ、これを解体して布貼りすることに。
厚紙で別に蓋部分を作り、地味めな布を貼っては乾かし、また貼っては乾かしして完成です。
カルトナージュには木工用ボンド(黄色と赤のアレ)とでんぷんのり(黄色と赤のアレ)を混ぜて使うといいらしいですよ。
勉強になりました。

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乾かすときに洗濯ばさみを使ったら跡が残ってしまいましたが、まあいいか。

 

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中はこんな感じ。
クッションと仕切りはおいおい考えようと思います。

何が入っていた箱だったのかさっぱり思い出せませんが、とっておいた自分、偉い。