夏の終わりに

前回投稿のあと、本格的な、長い長い梅雨が始まって終わり、夏が来て、さらに秋の気配を感じるまでに時間が経ってしまいました。
何をしていたかという話の前に、先週末、風鈴を買ったのでまずはそのご報告です。

以前書いたとおり、我が家にはすでに3つの風鈴があり、つまりこれは4つめの風鈴です。
たった今書いたとおり、秋の足音が近づきつつある今日この頃に、です。

いや、どうすんのこれ。

 

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自転車で、買い物がてら近所を散策していたわけです。
タオルハンガーとか、吊り下げられる大きな籠とか、座布団カバー用の古い布とかを買って「今日はこの辺で勘弁してやるか」的に自転車を流していたら、某ショップの店頭に並んだ風鈴を見て夫がいそいそと近寄っていきました。
お店は閉まっていたので残念そうでしたが、帰り道、偶然その風鈴を作っている工房前をとおりかかり、気づいてUターンする夫、追いかける私。
店主とのなんやかんやのコミュニケーションの末、4つめの風鈴が我が家にやってきたのです。
これはもう、仕方がないのです。

上の画像だと普通の風鈴に見えますが、実は意外とミニサイズ。

 

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銅製の愛らしいヤツなのです。
清涼感のなかにも情緒と奥ゆかしさのある音で鳴るのです。

ひとまず、工房名が入った短冊を、裾上げしたパンツの切れ端(今回もワックス処理済み)に変えてみました。
とても、よい。

先月から軒先で揺れているガラス製風鈴に早々に暇を告げるか、それとも来年の楽しみにとっておくか、悩ましいところ。
とりあえずしばらくは、これを持って家のなかをうろうろすると思います。

 

 

先月引っ越しをしました。

8年住んだ以前のマンションは、交通の便も暮らしやすさもあって大家さんが素敵なご夫婦で、何よりとても気に入っていた部屋だったので、後ろ髪を引かれる思いもありました。
近所には長い付き合いの友人、お世話になった商店街のコーヒー豆屋さん、美容師さんがいて、離れがたい街でもありました。

それでも、最初は一本だったこの新しい土地との縁の糸がここ数年でどんどん増え、彼女/彼らの存在があったことで不安なく転居に踏み切ることができました。
本当に稀な、幸せなことだと思っています。

おススメ物件情報をまめに連絡してくれたり、夫の通勤へのアドバイスをくれたり、近くへの引っ越しを笑顔で喜んでくれたり、内見に付き合ってくれたり、してくれて本当にありがとう。

見上げれば都庁、見下ろせば首都高という大都会のマンションから、とても静かな場所にある戸建てへ。
建物が古い、という以外はほぼ真逆の住環境となりましたが、みんなのおかげでとても快適に過ごせています。ありがとう。

 

 

心配事があるとしたら。

引っ越しを手伝ってくれたときに3つの風鈴を全部吊るそうとしていた友人に、4つめの存在がバレたらどうなるのか、ということくらいかな。

月と花束

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むかしむかし、といっても大人になってからだけど、小さな姉妹とおともだちだった。

姉妹は、当時私が働いていたパン屋さんに週末のたびやってきて、店の隅っこでお絵かきしたり、店の前でなわ跳びしたり、していた。
お客さんがいないときに歌ったり踊ったりしていたこともあった。

妹のユリは絵が上手で人懐っこく、いつも愉快なことを言ったりやったりしたくてたまらないようだった。
お姉ちゃんのうしろをくっついてまわり、すぐ真似しては、すぐ飽きていた。

姉のマリは字が得意で人見知り、もじもじとうつむいて、はにかんで、そろっと手をつないでくる。
お母さんが毎日言ってるであろうその言い方で、「はーしーらーなーいー」と妹に注意していた。

 

3回めか4回めの週末、マリが小さな声で「おともだちになって」と言った。
ユリは「おともだちじゃないの」と言った。
私は「おともだちだよ」と言った。
そのように私たちはお互いをおともだちとして認め合ったのだ。

あるときユリが夜空に浮かぶ大きな月を描いていて、そのまんまるな黄色には、重ねて描かれたウサギの顔があった。
それで私はずっと疑問だったことを聞いてみた。
「ねえ、ホントに月にウサギが見える?」と。
「私にはくたびれたおっさんが見えるんだけど」と。
それから慌てて「疲れたおじさん」と言い直した。
マリは首をかしげて「わかんない」と言った。
ユリは「おっさん!おっさん!」とはしゃいでいた。
私は内心しまったなあと思いつつ、「こんなふう」としょんぼりしたおっさんの横顔を描いてユリにわたした。

翌週、姉妹は走ってやってきて、ユリが折りたたんで持っていた私の絵を広げ、「おっさんいたよ!」と報告してくれた。
ふたりはただのおともだちではなく、後にも先にもただふたりだけの、「月におっさん」説の賛同者だった。

 

パン屋で働く最後の日、姉妹はなかなか顔を出さなかった。
夕方になって姉妹のお母さんがやってきた。
お母さんは、今まで本当にありがとうねとおじぎをして、手紙をくれた。
そして少し困った顔で、車まで来てもらえないかな、と言った。
店長に断ってからお母さんについていくと、車には眠りこけているユリと、真っ赤な目をしたマリがいた。

車まで歩きながらお母さんに聞いた。
今日は街で花を買ってから3人でパン屋に来る予定だったこと。
でも川沿いにたくさんの野花が咲いていて、マリが「この花がいい」と言ったので、姉妹で花を摘んだこと。
パン屋へ向かう車中、上機嫌だったマリがどんどん無口になり、着いても車から降りようとせず泣いていたこと。
「おなか痛いの」と心配していたユリも寝てしまい、途方に暮れたお母さんが私を呼びにきてくれたこと。

「いっぱい遊んでくれてありがとう、楽しかったね」とウサギのようなマリに言った。
「お花摘んでくれたの?」と聞くと、背中に隠し持っていたしおしおの花束を差し出してくれた。
まるでこの世の終わりのような顔で。

 

そのとき、なぜだか自分が小さな女の子になったような気がして、とても胸が苦しかった。
今でも思い出すと苦しい。
そしてそのあと、自分が何と言ったのかがどうしてもわからない。
ありがとうは、ちゃんと笑顔で言えたのだろうか。
ユリは目を覚ましたんだっけ。
ずっと強く握られていた花束の茎の、その生温かさだけが手によみがえってくる。

 

 

天袋の整理をしていて見つけた手紙を読んで、どうにも後ろめたい気持ちになりました。
もうずいぶん長いこと、ふたりを忘れていたから。
ユリの手紙には「またあそuでね」、マリの手紙には「ずっとわすれないからね」と書いてありました。

 

月におっさん、今もいるかな。
次の満月の夜に確かめてみるよ。

掃除機は片付けました

・虫よけ、鳩よけとしてベランダで育てているセンテッドゼラニウムが今年は例年以上にもりもり育ち、花もたくさん咲きました。
・それで気を抜いて窓全開で過ごしていたら室内にスズメが舞い込み、外へ逃がすため夫と二人でひとしきり走り回りました。
・母の日関連で実家に電話すると至近距離でウグイスが鳴いていて、「さすが田舎、部屋に入ってくる鳥もウグイスとは風流な」と思ったら父の口笛でした。
・父譲りの散らかし癖とデリカシーのなさは謹んで返上させていただきますので、代わりに口笛の才能をください、と布団のなかで神にお祈りしました。

 

ブログの更新、少し日が空いてしまいましたので、この春の我が家のダイジェストをお送りしました。

さて、なんだかよくわからないうちに真夏のような暑さになりましたが、皆さまはお元気にお過ごしでしょうか。
こちらは変わりなく、先月は販売会ご注文分の製作に励み、ありがたいことにその後もメールなどにてぽつぽつご注文をいただいています。
これなら着けられるとおっしゃっていただけるお客様も増えてきて、その理由は軽さだったり、本体や金属パーツの素材だったり、色やサイズのバラエティだったりと様々ですが、いやもうほんとに、もったいないことです。ありがとうございます。
何をどう書いても伝えられないとは思いつつ、tagottoにかかわってくださっているすべての方へ、感謝の気持ちを新たにしています。ありがとう。

ニヤニヤするな、調子に乗るなちゃんとしろ、とさっき使い終わったままの場所で横たわっている掃除機が申しています。
次へ向けての新しい糸もすでに手元にありますので、また気と顔を引き締めて取り組んでいきます。
まずは掃除機を片付けよう。

 

 

その前に、この時期恒例の繕い報告。

久々に靴下をダーニングで繕いました。
あと破れかぶれジーンズの補強もしました。

 

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しかしジーンズって衣類のなかでは断然丈夫なイメージなのに、なぜかすぐ破れますよね。
私のは膝、夫のはお尻回り。
しょっちゅう直してるような気がします。
洗濯もする派なんだけどなあ(洗濯しないと汗で生地が傷みやすいらしい)。

それから、2年前にウール50%ナイロン50%の糸でステッチした靴下、まだ現役でバリバリ履いてます。

 

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補修箇所、すっかりフェルト化しています。
密に縫い過ぎたせいでモリッとしちゃったけれど、快適。
ナイロン入りの糸はやはり丈夫ですね。

こちらからは以上です!

春と言えば

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最初に作った装身具は、ボタンのネックレスでした。
行った先々で買ったボタン、母の古いジャケットのボタン、着なくなった自分の服から取ったボタン。
それらを布に縫いとめ革に貼り合わせ、鎖を付けただけのネックレス。
糸でアクセサリーを作るようになる何年も前のこと、友人の結婚パーティで使うために作ったものです。
昨秋、このネックレスを久々に手にしたら、当時の状況がぶわっと蘇りました。

たくさんのボタンを何か形にしたくてずっとあれこれ考えていたことや、でも失敗して無駄にするのが怖かったこと。
ずっとぐたぐた手をこまねいていたときに踏み切れたきっかけが、友人の結婚を祝う気持ちだったのです。

少し大げさだと思われるかもしれませんが、好きなものを使って何かを作るとき、常に失敗を恐れる気持ちはあります。
今も、糸や布を無駄にしたらどうしようといつも思っているし、それでも失敗はする。ものすごくする。
自分がゴミ製造機に思えてへこたれることもしばしば。
けれど続けていられるのは、今作っているものは形を変えてもきっと誰かに届くという希望を持てているからです。

今年も3月20日から24日まで、逗子にてtagottoの展示受注販売会をさせていただきます。
4月から日常が大きく変化する人、ほんの少し変化する人、生活自体が変わらずとも、気持ちが何となく新たになる人。
そんな人たちの次の一歩を少し大きくできるようなものを、という思いで作ったアクセサリーを持っていきます。
それから、今年ははぎれの風呂敷なんかも。

今回で3度目となるこの販売会。
私の希望の主成分はこの機会、場所であり、ここでお会いする皆さまです。
春の逗子で美味しいコーヒーとケーキをご堪能いただいたのち、眺め、手に取り、試しに着けてみていただければ幸せです。

 facebookイベントページ

 

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密やかなバッグの中身

雑誌などに載っている、日常使いのバッグとその中身を紹介するコーナーが好きで、よく見ます。
素敵なバッグはそれだけでもぐっとくるのに、何をどんなふうにいれて使っているのか、道行く人や友人にさえなかなか確認させてもらえないそのことを、バッグから出して並べて真俯瞰で撮られた写真があっけらかんと教えてくれますから。

マリメッコのポーチや刺し子のがま口を使っている人はきっとファブリック好きなんだろうな、とか。
黒い革モノが多い人はアイアンの家具を持っていそうだな、とか。
そんな想像を膨らませつつほうほうと眺めます。
ごく狭い空間の限られたアイテムゆえ、その人の家以上にその人の個性が出ているかも、と思いながら。

個人的には、そんな写真は撮られたくなんかありません。
今日のバッグの中身は確認しなくてもわかります。

・レシートでぱんぱんの財布
・むき出しの龍角散のど飴とリップクリームとハンドクリーム
・しわくちゃのハンドタオル
・ボロボロのノートとシグノの極細ペン
・年始に酒屋でもらった酒粕の説明書
・新宿でもらったポケットティッシュ
・堀江敏幸「もののはずみ」(これだけ恥ずかしくないのがかえって恥ずかしい)

小物がむき出しなのはこの前友人宅にポーチを忘れてきたからですが、それにしたってどうでしょう。
違うポーチを使えばいいじゃないですか。
酒粕の説明書もとっくに読んだんだから捨てなさいよ。
せめてバッグから出しなさいよ。

と自分を叱咤する気持ちもありつつ、ずるずるそのまま持ち越してしまう。
バッグも中身も美しい人たちを尊敬しています。

先日会った幼なじみとなぜだか化粧ポーチの話になり、彼女がバッグからポーチを取り出して見せてくれました。
スマホケース、財布、ポーチ、が青のグラデーションになっていて、「鞄の中にこんなふうに入っていると綺麗で嬉しい」のだそうです。
でも「このポーチだけ思っていた色じゃなかったからちょっと嫌(ネットで買ったから)」とも。

言いたいことはわかるよ。
もっとマットで、彩度が低めの色味がよかったんだよね、きっと。
でも今でも充分、はっとするほど美しいよ。

彼女はそうだった。
自分の快適さに妥協しない人だった、昔から。
お手本は、子どもの頃から近くにいたんでした。

私の個性がしわくちゃでボロボロでバラバラなだけにならないよう、せめて「バッグの中身がこんな人が作ったアクセサリーはちょっと…」と思われないよう、彼女に倣って精査しよう。
どこかでお会いしたときには、気軽にバッグの中身をお見せします、きっと。

 

そのためにという訳ではないのですが、はぎれの風呂敷をたくさん縫っています。
これは私らしさでもあり、きっとあなたらしさでもあるでしょう。

 

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