手しごとまわりのこと

密やかなバッグの中身

雑誌などに載っている、日常使いのバッグとその中身を紹介するコーナーが好きで、よく見ます。
素敵なバッグはそれだけでもぐっとくるのに、何をどんなふうにいれて使っているのか、道行く人や友人にさえなかなか確認させてもらえないそのことを、バッグから出して並べて真俯瞰で撮られた写真があっけらかんと教えてくれますから。

マリメッコのポーチや刺し子のがま口を使っている人はきっとファブリック好きなんだろうな、とか。
黒い革モノが多い人はアイアンの家具を持っていそうだな、とか。
そんな想像を膨らませつつほうほうと眺めます。
ごく狭い空間の限られたアイテムゆえ、その人の家以上にその人の個性が出ているかも、と思いながら。

個人的には、そんな写真は撮られたくなんかありません。
今日のバッグの中身は確認しなくてもわかります。

・レシートでぱんぱんの財布
・むき出しの龍角散のど飴とリップクリームとハンドクリーム
・しわくちゃのハンドタオル
・ボロボロのノートとシグノの極細ペン
・年始に酒屋でもらった酒粕の説明書
・新宿でもらったポケットティッシュ
・堀江敏幸「もののはずみ」(これだけ恥ずかしくないのがかえって恥ずかしい)

小物がむき出しなのはこの前友人宅にポーチを忘れてきたからですが、それにしたってどうでしょう。
違うポーチを使えばいいじゃないですか。
酒粕の説明書もとっくに読んだんだから捨てなさいよ。
せめてバッグから出しなさいよ。

と自分を叱咤する気持ちもありつつ、ずるずるそのまま持ち越してしまう。
バッグも中身も美しい人たちを尊敬しています。

先日会った幼なじみとなぜだか化粧ポーチの話になり、彼女がバッグからポーチを取り出して見せてくれました。
スマホケース、財布、ポーチ、が青のグラデーションになっていて、「鞄の中にこんなふうに入っていると綺麗で嬉しい」のだそうです。
でも「このポーチだけ思っていた色じゃなかったからちょっと嫌(ネットで買ったから)」とも。

言いたいことはわかるよ。
もっとマットで、彩度が低めの色味がよかったんだよね、きっと。
でも今でも充分、はっとするほど美しいよ。

彼女はそうだった。
自分の快適さに妥協しない人だった、昔から。
お手本は、子どもの頃から近くにいたんでした。

私の個性がしわくちゃでボロボロでバラバラなだけにならないよう、せめて「バッグの中身がこんな人が作ったアクセサリーはちょっと…」と思われないよう、彼女に倣って精査しよう。
どこかでお会いしたときには、気軽にバッグの中身をお見せします、きっと。

 

そのためにという訳ではないのですが、はぎれの風呂敷をたくさん縫っています。
これは私らしさでもあり、きっとあなたらしさでもあるでしょう。

 

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うるさくても別にいいのだけれど

・電子レンジ
・トンカチ
・フライパン
・蝶番
・マグカップ
・ペンチ
・包丁
・キッチンばさみ
・奥歯

あなたはこのなかで、どれを使っていますか?

と問われてすぐに「私は断然トンカチ派!」とか「手軽なレンジかな?」と答えられる人はなかなかの通ですね。
何の通かって、「専用機器がない場合の銀杏の割り方通」です。

 

一昨年、長年使っていたキッチンばさみを買い換えました。
支点部分が錆びてしまい、何を切るにもやたら力が要るようになったからです。
総ステンレス、分解&丸洗いできるタイプにして今は何の問題もないのですが、古いはさみにあって今のはさみにない機能がひとつ、それが「銀杏割り」でした。

銀杏割りはずっと「キッチンばさみ一択!」だった私は途方に暮れました。
銀杏は美味しい。
好き。
でも季節ものだし、殻付き銀杏を家で調理して食べる機会は年に10回もない。
そのために何かしら買い足すのも気が引けて、今あるもので可能なあらゆる方法を試してみることにしました。
で、調べて出てきた主な用具が冒頭のリストです。

世界は広いなあ…とどうでもいい感慨を抱きながらメモを眺め、まず奥歯は問答無用で却下、蝶番は好奇心をくすぐられつつも大家さんへの申し訳なさから却下(でも意外と良さそうなので、興味がある方はぜひ試して感想を教えてください)、キッチンばさみはそもそも論外、なのでそれ以外を順に試してきたわけです。
以下、2年間の悪戦苦闘の記録です。

・封筒に入れて電子レンジでチン、はムラがあり、爆発する銀杏、いつまでも意地を張る銀杏が毎回いて、しかも目視できないので厄介。
あと破裂音がパチンパチンうるさい。

・トンカチでは私のやり方が悪いのか、何度チャレンジしてもなかなか割れず、コツもつかめなかった。
割り箸と輪ゴムで銀杏を固定する合わせ技もあるらしいが、まずそれが面倒くさすぎる。
あとガンガンうるさい。

・フライパンや鍋での乾煎りは腕が疲れるし時間がかかる。
ひとつも割れないまま断念したので想像だけど、多分うるさい。

・マグカップは割れるというか潰れる。
潰したい人におすすめ。

・ペンチ、思った以上に簡単かつ確実に割れる。
もうペンチという名の銀杏割り器。
うるさくもない。

 

正直なところ、ポスト・キッチンばさみはペンチが大本命だと事前に予想はしていました。
だったら最初からペンチで割ればいいようなものですが、まあ面白くないですからね。
それにペンチはペンチとしてすでに八面六臂の活躍を続けていて、中身まで割れた場合の匂い移りを避けたい気持ちもありました。
でも、まったく大丈夫。
力もコツも要らず、キッチンばさみのように手が痛くないから軍手もいらない。
不在によって美化されていただけで、はさみで銀杏を割るのは大変だったことを思い出しました。

勝手のいい方法は人それぞれだと思いますが、少なくとも以前の私のようにはさみで銀杏を割っている人には、一度ペンチを試してみてほしいです。
ないならいっそ買ってもいいかもしれません(何かと便利です)。
ラジオペンチではなく、画像のようないかつい「実家から持ってきました」的タイプがおすすめです。
私はもう頼まれてもはさみには戻れません。

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あと包丁はまだ試してませんが、多分この先ずっと試さないと思います。

金継ぎのこと の続き

前回の続きです。

 

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いろいろ考えたのですが、すべて漆で行う金継ぎの場合は工程も多く、冬場の乾燥時間を考慮すると私の場合2ヶ月はかかるだろうと踏んで今回は断念。
合成樹脂で接着後、漆を塗って真鍮を蒔く、というプランで決行しました。
これだと1週間程度で仕上がるはず。
はず、だったのですが、焦って室(湿度を保つために使っている発泡スチロールの箱)の湿度を上げ過ぎて漆がシワシワに縮んでしまってやり直したりして、結局2週間以上かかってこうなりました。

 

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従兄が結婚した際、両親とともに彼の職場(レストラン)に招かれて食事をし、併設のショップで母が購入したのがこの長角皿。
とても使い勝手がいいようで、実家に帰るといつもお刺身や両親手製のつまみが盛られて出てきていました。
私にとっても思い入れのある2枚です。
やり直す前の手入れがうまくいかずあまり綺麗に仕上げられなかったけれど、まだまだ使い続けられるようにはなったのでほっとしました。

ついでに我が家の「金継ぎ待ち」箱に入っていた器も継ぎました。

 

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こちらもすべて真鍮仕上げ。
ぺかぺかし過ぎていたので、最後に透漆で拭いて少し落ち着かせました。

 

 

小さな欠けに直接漆を塗っての補修はまめにやっていたのですが、蒔絵を伴う金継ぎは2年ぶりくらいでしょうか。
久々にやってみて改めて思ったのは、基本的に向いてないな、ということ。
作業工程のなかでも、サンドペーパーや砥石で磨いたり、欠けを成形したりする地味な作業は得意なのですが、段取りと手際の良さが必要な「塗り」や「蒔き」、そして作業時間のほとんどを占める「待ち」が圧倒的に向いていない。
急がなければならないところでもたもたして失敗し、じっくり時間をかけるべきところで焦って失敗する。
毎回このパターンです。
それでも、これからも機会があればやり続けていきます。
やり続けていって、人間性を金継ぎに寄せていきたいと思っています。

何しろ、向いてない人ほど金継ぎの機会は多いですからね。

金継ぎのこと

初めて金継ぎをしたのは2014年の夏。
それまで、割れたカップや欠けたお皿はもっぱら植木鉢とその受け皿にしていました。
どんどん増える多肉を幾つか育てているのでそれはそれで役に立ったのですが、すべての食器に適性があるわけでもなく、やはり食卓で使い続けたいお気に入りだってある。

いつかやろうと押入れに装備していた金継ぎ道具セットを持ち出して、付属の薄い冊子を参考に最初に継いだのがこれです。

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ポットとそのなかで使う茶漉し。

失敗してやり直したりしながら、2ヶ月以上かけて何とか仕上げました(今考えるとよく初っ端から金を蒔いたよね、怖い怖い)。
よかった、苦労した甲斐あったと浮かれていたら無傷の蓋を落としたうえ焦ってなぜか蹴っ飛ばし…という惨事も今は笑って振り返ることができます。

Collage_Fotor.kintsugi2

 

ところで金継ぎ金繕いと言いましても別に金で継ぐわけではなく、漆を接着剤に、漆と木粉や小麦粉などを混ぜて作ったペーストで欠けを補いながら修繕し、最後に塗った乾ききらない漆の上に金銀真鍮などの金属粉を振りかけて仕上げるのです。
上記蓋画像のように、別に金属粉を使わず漆で終わらせることもできます。

そして大事なこと。
漆の乾燥には高温多湿が最適です。
他の塗料などとは違い、漆は湿度がないと硬化にとても時間がかかってしまうのです。
20℃以上の気温と65%以上の湿度が必要で、つまり日本の冬は金継ぎにまるで向いていません。
向いていませんが、親に頼まれた皿の繕いを年末の帰省までに仕上げたいという事情があり、冬の金継ぎに初挑戦しました。

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ボンドでくっつけた状態だったのでまずは煮沸分解後ルーターでボンドを剥がし、準備OK。
後半へ続く。

遥かなるエレガンス (カバーの話 その2)

先日本屋さんで見かけた某雑誌のコピーが「エレガンス、ということ。」で、伸ばしかけた右手がなぜか引っ込みました。
はて、と考えて自覚したのですが、エレガンスには苦手意識があります。むしろ苦手意識しかございません。
自分がエレガンスに程遠い人間だからでしょう。

エレガンスに程遠い。
それは昔も今も同じようで、久しぶりにあった友人に「あら?なんだかエレガントな感じになったわね」などと言われたことは一度もありません。
「相変わらず貧乏くさくて安心したわ」とはよく言われますがね。

思うにエレガンスとは品であり知性であり、またそれらに裏付けられた立ち居振る舞いの美しさでありましょう。
エレガントな人は、あらゆることがきちんとしています。きちんは前提です。
急な来客があっても笑顔でどうぞとスリッパを出し、トイレも快く貸してくれることでしょう。
私のようにちょちょちょっと待ってとは言いません。
箸もナイフ&フォークも身体の一部のように使いこなし、しかし手羽先を手づかみすることも厭わない余裕もあります。
私のように年に一度の割合で誤って箸を噛み切ったりはしません。
椅子に腰かけるときと立ち上がるときに人間性が表れる、と聞いたので凝視してみましても、静かに座り、スマートに立ちあがるのです。
椅子がガガガと音を立てることはなく、よっこらどっこいしょなどとは決して言わないのです、いえ、私も言いませんけれど。

出したらしまう。
開けたら閉める。
点けたら消す。
子どものころから言われていることが未だにままならない私には、エレガンスは遥か彼方過ぎて眩しくさえないのです。

しかし、このままではいけないと、ときどきエレガンスへの一歩を踏み出そうとはしています。
去年はせめて静かに椅子に座れるよう、ダイニングチェアに靴下を履かせてみました。
椅子の脚カバーを編んだのです。
正しい一歩かどうかは知りませんが、嬉々として取り組みました。
ところが一年たって、気づいたら椅子がまた音を立てています。
気づいてからさらに半年程たってようやく確認してみたところ、擦り切れて靴下の底がなくなり、レッグウォーマーになっていました。
いけない、エレガンスが遠のく、編みなおそう。

 

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編みなおしました。

よし、この勢いであの雑誌を買ってみよう。
そう思ってさっき本屋さんへ行ったのに、なぜかハンターハンターの最新刊だけを買って帰ってきてしまいました。

おっかしいなー。